クラッククライミングとは

クラッククライミングとはフリークライミングの1ジャンルです。岩にあるひび割れ(クラック)を手がかり足がかりにジャミングを極め、NP(ナチュラルプロテクション)ギアと呼ばれるカムやナッツなどを安全確保のために使用しながら登るスタイルのクライミングです。
現在のようにボルトを気軽に壁に打つことを是としなかった時代は壁の中で連続的にプロテクションを取れる唯一の登攀路としてクラックが利用されてきた歴史があります。そのような経緯でクラッククライミングの事を歴史的なクライミングという意味を込めてトラディッショナルクライミング(トラッドと略すことが多い)と言われることもあります。

現在主流のフェイスクライミングに対してクラッククライミングは2つの特殊技術を必要とします。1つはジャミングの技術、もう1つはプロテクション技術です。

ジャミング

人間は何かにしがみつきたいとき、何かを手元に引き寄せたいときには一般的に手を握りしめて引き寄せます。これに対しジャミングは岩に割れ目に手足や体を入れて膨らませたりねじったりしながら体を保持します。このような非日常的な動きで岩壁を登っていく行為がジャミングでありクラッククライミングです。

ここを読んでいただく皆さんはクライミングを愛している人がほとんどだと思いますがその愛情にも色々な表現があります。自分から強烈に握りしめるのも良いでしょう、でも岩の方から自分を抱きしめてくれる感じ(特にワイド)そんな大人な表現がクラッククライミングにはある気がしませんか?

プロテクション

クラッククライミングではカムやナッツに代表されるようなNPギア(ナチュラルプロテクション-ギア)を使用して中間支点を作っていきます。これはナチュラルと言いつつかなりメカメカしく「どこがナチュラルなんだ?」と突っ込みたくなるのですが、私のようなオタク成分多めな人にとってはつい愛情を注いでしまったりします。

そのNPセットもクラッククライミングでは必須の技術です。実はジャミングに関してはフェイスの能力が強ければ細かいスタンスを拾ったりレイバックをして代替えすることができるのですが、プロテクション技術に関しては代替の技術がありません。またプロテクション技術は登る技術とは全く別に覚える必要があり、それなしに登る技術だけが向上してしまった場合には「プロテクションがちゃんと取れない状態で登ることだけはできてしまう」と言う非常に危険な状態になります。

精神性と戦略性

ジャミングとプロテクション、フェイスにはなかなか出てこない技術がクラッククライミングの精神性と戦略性に大きく影響してきます。

一般的なフェイスクライミングであれば目の前にあるハンガーボルトにクリップをすれば一安心でプロテクションに関してはそれ以上考えることはほぼありません。

それに対してクラッククライミングにおけるNPは、自分でどの間隔でセットするか、ジャミングする場所との整合性、NPセットの出来不出来、駄目そうなときにNPセットをやり直すかどうか、などなど判断するべき事柄が大量にあります。

これらの大量の判断をパンプや体力というリミットの間に処理して登り切るというゲーム性が私は非常に面白いと感じています。

クラッククライミングと言うと「トラディッショナル」とか「クリーンに登る」などの精神的なイメージを強く持つ人もいますが、実際には非日常の動きを壁の中で行う非常に戦略的なゲーム性の高い楽しくちょっと苦しいクライミングなのです。