グリグリの科学 基本編

旧iron日記でもたくさん読んでいただいたグリグリの科学をまとめてCrackClimbing.netに移行したいと思います。
これを読む前に、まずは説明書を読みましょう!ここに書いてあることはそれ以上の部分についてのironの考察です。

あくまでも考察なのでメーカーのように絶対的な正しさも担保されませんし、ここに書いた情報を元に事故が起きたとしてもironは一切の責任は持ちません。オウンリスクでお願いしますよ〜

ここに書いてあることは基本編です、応用編はこちらをどうぞ。

→ グリグリの科学 リードビレイと繰り出し

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グリグリはなぜ止まるのか

写真は説明書通りにロープをセットしたグリグリです。
上に伸びるのがクライマー側、下に降りてるのがビレイヤーが持つロープになります。

ここでグリグリを閉じてカラビナにセットするのですが、今回は開けたままでビレイヤーが落ちた時を再現してみましょう。

クライマーが落ちるとカムが跳ね上がり、赤矢印の部分でカムがロープを挟み込んでいるのがわかります。グリグリはこの挟み込みの力でロープをロックします。

ポイントは、カムが跳ね上がった状態の方が中心点から周辺までの距離(下写真の緑矢印)が短くなるように作られているところです。

脳みそのウォーミングアップはできましたか?ここからは更に踏み込んで、どのようにしてカムが跳ね上がり、どうしてロックするかまでを考えてみますよ〜

1.クライマーがフォールするとクライマー側(上に伸びている)ロープが急激に引かれます。
2.青矢印の部分でロープとカムの摩擦が発生してロープに引っ張られる形でカムが跳ね上がります。
3.上に書いた挟み込み効果でロープの繰り出しが減速します
4.クライマーの落下速度は変わらないためにロープの入りと出で速度差が生じます
5.この差を埋めるために緑矢印の部分が短くなるようさらにカムが回転をします。
6.3に戻る

あと3〜6の繰り返しでロープは完全にロックするわけです。

ポイントは「2」の摩擦力で、この摩擦が足りずにカムが跳ね上がらないとそれ以降に繋がらないので全くロックが効きません! しかし一度でもカムが跳ね上がれば自動的に挟み込みの力が増えて殆ど力を入れずにクライマーのフォールを止めることができます。

ここまで書いてやっとビレイヤーに話が行くのですが、クライマーがフォールしたときに右手でロープをしっかりと持って減速すれば「2」の摩擦の有無にかかわらず、ロープの入りと出で速度差が生じて、直接「4」にいけるわけです。

つまりグリグリというビレイデバイスでは、最初のカムの跳ね上げをしっかりとサポートしてあげることが安全管理に肝になってきます。

ロアーダウン

制動の原理を書いたのでこんどはロアーダウンについて。

スピードコントロール

グリグリの説明書では左手レバーを引ききって右手でスピードをコントロールするように書いてます。しかし実際にこれをやるとかなりの勢いでロープが繰り出されて右手の抑え込みはかなりの力を要します。グローブをしていないと軽く火傷状態になるくらい勢いよくロープが流れちゃうんです。

これを回避するために左手のレバーでスピードコントロールしようとしてガクガクする人も多いのですが、まずは基本通りグローブを付けてビレイするようにすれば問題は出てきません。

でもせっかくグリグリ使ってるからレバーを緩めてカムを使って楽したいですよねw

楽をするコツはカムだけでスピードコントロールするのではなく、軽くカムを効かせることを覚えるとです。実はグリグリ2のカムは弱い制動〜強い制動の2段階にわかれていて、私はこの弱い制動をかけながら細かい部分は右手でコントロールしてロアーダウンさせています。

この方法を覚えると細かいコントロールをしつつも、非常に楽にロアーダウンできるのでおすすめです。

右手の位置

グリグリでロアーダウンするときの右手は、上の写真のようにグリグリをセットしているカラビナに軽く指をかけるくらいの位置がベストです。この位置であれば制動を効かせやすく、ロープもキンクしません。ロアーダウンで手がグリグリの横に行ってしまうと、ロープが横からグリグリに入り、捻れた状態(=キンク)を作り出してしまいます。

本当はペツルのフレイノを使うとロープがベストポジションに入ります。でもこのカラビナ高いんですよね〜貧乏な私は同じ位置にロープが来るように調整している次第です。
メーカーさんには頑張ってもらって安全管理に携わるギアはリーズナブルに出してほしいものです。

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グリグリの意味

グリグリについて色々と書いてきましたが、実際に使うと結構癖が強いデバイスなのは否めない事実だったりもします。それでも私がグリグリを使うのはそれを上回るメリットを感じているからです。

グリグリのメリットは心臓発作や落石みたいにやばい物からチョークとか砂とかが目に入って意識が他に行ってしまったときなど、ビレイに集中できない状態になったとき発揮されます。グリグリを使ったからと言って万が一の場合に100%止まる保証はないのですが、ATCのように確実にグラウンドフォールするデバイスと比較すると圧倒的に安全性が高まります。

でも、それよりも重要だと思う部分があって、、、

本質的な部分でビレイでずっと気を張ってるのは現実的ではない気がするんですよね~
一瞬の気のゆるみで・・・なんてよく言うけど人間ってどのくらいの時間、気を張り詰めた状態を維持できるんでしょう?

右手さえ放さなければクライマーが想定外の不意落ちをしてもグリグリがフォローアップしてくれます。核心部では集中するけどそれ以外では(良い意味で)手も気も抜く。手を抜いている部分ではグリグリがビレイヤーのフォローしてくれる状態にある。このような状況をキープしたほうが全体の安全性が高くなると思うんですよね。

以前ファミリーでクライマーがカムでセルフビレイをセットした状態で、ビレイヤーが確保するべき右手を離してしまい、カムが抜けてグランドフォールした事故がありました。

これもクライマーがセルフ取ったらビレイヤーも休むってのが正解だと思います。ただし安全面を考えたらビレイ側ロープを結んでおくとかちょっとした工夫は必要ですよね。グリグリでもロックが効いた状態で手を放したい場合は末端側を結べば安全に手を放すことができます。

こういう情報が全く出てこない状況で根性論的に「集中してビレイを・・・」と言うだけでは全体として安全な方向に行かない気がします。

すべてが理想的に運営できたときだけ最高の安全が確保されるピーキーな安全性能ではなく、多少のミスや気の緩みなどが起きても安全を確保できるシステムを構築していったほうがトータルで事故は減っていくと思います。

トータルで事故を減らすという意味で、グリグリと同時にビレイグローブも安全性に大きく貢献するので、使用を強くおすすめします。

色々と書いてきたけれども、みんなが安全に楽しくクライミングできますように!