セルフレスキューの方法

事故を起こしたいと思う人は一人もいないと思いますがそれでも事故は起きてしまいます。そんな万が一のときのためにここに書いたレスキューの方法を頭の片隅に入れておいてもらえればと思います。

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セルフレスキューとは

セルフレスキューとは読んで字のごとく自分で自分を救助する技術のことです。

クライミングではパーティーの単位で行動するので一般的には自分たちのパーティーで救助を完結させることがセルフレスキューの理想と言えます。

しかしクライミングで重大事故を起こしてしまった場合、まず考えるべきことは一刻も早く病院施設に要救助者を連れて行くことになります。なので現実的には訓練を受けたレスキュー隊の出動をお願いしつつ、レスキュー隊到着までの間に少しでも救命率を上げるために行う最低限の搬送や応急処置が行うべき事と言えます。

逆にそこまで怪我が深刻ではない場合は、公助としての消防レスキューなどを頼むのではなく自分たち(クライマーたち)だけで行う自助共助のレスキューも検討してみましょう。地元への負担がなくなれば存続が危ぶまれる岩場などでは非常に意味のあるものになります。目安として「肩から先」と「膝から下」の激しい裂傷や出血を伴わない怪我であれば自力で病院までたどり着くのがセルフレスキューといえます。

これらのセルフレスキューは具体的には下記のような流れで行います。事故の程度によって2の連絡内容や3の処置方法は変わってきますが基本的な流れは変わりません。

1.転落の危険や落石などのない安全な場所への移動
2.緊急連絡(応急処置と並行して)
3.応急処置
4.救急車やヘリが来られる場所まで要救助者を運ぶ

安全な場所への移動

事故が起きた時はまず助けに行く場所が安全かどうか確認します。落石多発など明らかな危険がある場合は二次災害を引き起こす可能性があるので慎重に判断をしてください。

要救助者のいる場所に危険がなければその場で必要な応急処置を施しますが、移動したほうが安全と判断される場合は要救者を安全な場所に退避してから応急処置を行います。

具体的にはシングルピッチのフリークライミング中に事故が起きた場合はロアーダウン一択です。色々なシステムを覚えたとしても、要救助者を上に引き上げることは現実的ではありません。

マルチの場合はその場でヘリを待つかビレイ点までロアーダウンした後から介助懸垂で降りる形になるでしょう。

数少ない例外として引き上げが登場するのは、マルチ登攀中にフォローが行動不能になった状態ですぐ上にテラスなどがありヘリ救助しやすい状況などですが、レアケースなので基本的にはマルチであってもその場で待機か下におろしたほうがレスキュー的には楽なことが多いです。

緊急連絡

クライミングで事故を起こしてしまった場合には、要救助者状況によって緊急連絡をするかしないか、するとしたらばどこのするべきかが大きく変わってきます。

このあたりの判断基準や緊急連絡の内容などについて詳しいページを書いているのでこちらを参照して下さい。

→ 事故対応における緊急連絡

リンクにも書いていますが、緊急連絡のための連絡先交換はクライミング前にかならず行っておきましょう!

応急処置

緊急連絡の目処がついたらば次は応急処置です。119番通報してレスキューを待つにしても、少しでも要救助者が楽になるように、予後が良くなるようにできることをしておくのが望ましいです。下のリンクで詳しい内容を書いているので参照してください。

→ セルフレスキュー @応急処置

搬送

軽症であれば自力搬送で下山してしまうほうが良いのですが、難しいようであれば無理せずレスキュー隊の指示に従いましょう。ここで書くことは比較的軽症で意識もあることを前提として書いています。

要救助者を動かすときは本人に動けそうか聞きながら

本人の意識がある状況ならば様子を聞きながら移動しましょう。動かすときに無理がかかれば本人から「イタタタ」など何らかのアクションがあるのでその場合は他の動かし方を考えましょう。

気絶や意識が混濁してる時は動かさない方が無難です。
また首や腰を打って手足にしびれがある場合は要注意です。

背負搬送

必要な物
・空のザック 腰ベルトがしっかりした物が良い
・60cmスリング×2
・合計2~3mのスリング
・カラビナ×2
・要救助者がハーネスを履いていること

やりかた
写真のようにザックの肩紐にスリングをタイオフしてクロスさせます。それをループに通して要救助者のハーネスのレッグループにクリップします。この準備とは別に要救助者の脇の下に新たな長めスリングを通しておきます。ここまで準備ができたらば要救助者をザックごと背負い、要救助者の脇の下から来ているスリングを手で持つかチェストベルトのあたりで結びます。

ポイント
天袋も含めて荷物を空にしましょう
背負い始めは左右に介添えを付けましょう
歩き始めたら前後でサポートしましょう
上り坂では背負い人のハーネスにスリングを付けて引っ張ると楽です
上り坂では後ろの人はお尻を押すと楽です
坂道はロープで確保しましょう

担架搬送

必要な物
・空きザック×3
・スリング60~120cm大量に
・6人程度の協力者
・要救助者はハーネスを履いてなくてもOK

やりかた
一度ザックのショルダーベルトを外して隣のザックのショルダーベルトと連結します。
出来上がったザック担架に要救助者をのせます。
足から順番に頭に向けてウエストベルトなどで要救助者を固定します。
頭は頚椎のあたりにタオルやフリースを巻いてずれないようにした上でウエストベルトで頭ごと固定します。
搬送者はスリングをたすきがけにしてと連結します・
頭側に付いた人の指示で持ち上げてたり運んだりします。

ポイント
固定は足から頭へ行います
用意できるザックの中で一番立派な腰ベルトのものが頭にくるようにセットします
要救助者の頭には帽子かメットをかぶらせましょう
通常は足から進みますが、上り坂は頭から進みます。
ショック症状が出ることがあるので上着とかで保温しましょう・
頭の部分を持つ人は要救助者に声をかけましょう。
先頭の人は道の状況を知らせながら歩来ましょう、後ろの人は足元がよく見えません
先頭の人のハーネスにスリングを付けて他の人がひくと楽です

実際にやってみるとスリングの長さ調節とか役割分担とか細かい調整で思わぬ時間を食うので担架搬送が必要なほどの重傷者の場合はレスキューが来てくれる時間なども勘案して本当に自力搬送が早いのかを判断する必要があります。

山奥の場合は一刻も早く麓まで下ろすことも検討する

山奥深くでレスキューに時間がかかるような場合はアドレナリンが出て痛みが麻痺している間に下ろしてしまうのも1つの手です。特に夕闇が迫る場合はヘリが有視界飛行できない可能性が高いので、ビバークするか降りてしまうかの究極の選択をする必要があるかもしれません。
要救助者を動かせるかどうか悩ましい時は119番で指示を仰ぐのが望ましいです。

予め準備しておきたいこと

事故を起こさないことは大事ですが、ここはどんなに注意しても絶対はありません。なので万が一のために最低限の備えは必要です。

緊急時連絡先

病院では治療を行うのに本人の意識がない場合は親族のサインが必要になります。最悪の場合は病院の判断で治療をすすめることもありますが、予め万が一に備えて緊急時連絡先をパーティー内で確認しておきましょう。

また持ち物のどこかに緊急時連絡先を記入してそれを知らせ合うのも有効です。私の場合はヘルメットの内側に緊急時連絡先や血液型を記載したテープを貼っています。他にはザックの内側やハーネスなどいろいろな例がありますが、それもパーティー内で確認しておくと良いでしょう。

救急セット

クライミングで怪我をしてしまった場合に最低限の救急セットがあると心強いです。こちらのリンクに詳細を書いているのでよければどうぞ。

→ クライミングで使用する救急セット

事故を起こさないのが一番ですが、万が一のときに被害を最小限に食い止めるのも非常に大事です。日頃から少しでもいいので備えをしておきましょう。